大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和46年(行ウ)6号 判決 1979年4月11日

仙台市本町一丁目一〇番一二号

原告

菅原光太郎

右訴訟代理人弁護士

太田幸作

松倉佳紀

仙台市上杉一丁目一番一号

被告

仙台北税務署長

中島寿一

右訴訟代理人弁護士

伊藤俊郎

右指定代理人

橘内剛造

千葉嘉昭

遠藤恒光

岡本善吾

早川信雄

尻谷茂

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和四四年四月二四日原告の昭和三九年分及び昭和四〇年分の所得税についてした各重加算税の賦課決定処分は、いずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二原告の請求原因

一  本件処分の経緯等

1  原告は昭和四一年当時軽種馬事業等を営んでいた者でいわゆる白色申告者であるが、昭和四三年一一月二八日被告に対し、昭和三九年分所得税につき所得金額を三、一一九万六、〇〇〇円税額を一、六四二万五、四〇〇円、昭和四〇年分所得税につき所得金額を一、四八五万六、〇〇〇円税額を六八一万八、八〇〇円とする各修正申告書を提出したところ、被告は、昭和四四年四月二四日、原告に対し、昭和三九年分所得税につき過少申告加算税一〇万一、八〇〇円、重加算税四三一万六、七〇〇円、昭和四〇年分所得税につき過少申告加算税七万九、〇〇〇円、重加算税一五七万一、一〇〇円の各賦課決定処分(以下、右各重加算税の賦課決定処分を「本件各処分」という。)をなし、翌二五日右決定書が原告に送達された。

2  原告は、右各賦課決定処分のうち本件各処分に対し、昭和四四年五月二六日被告に対して異議申立をしたが、同年八月二五日これを棄却されたため、同年九月二五日国税不服審判所に対して審査請求をしたが、昭和四六年三月三一日これを棄却され、その裁決書謄本が同年四月一三日原告に送達された。

二  本件処分の違法事由

しかしながら、被告がした本件各処分は以下の理由によりいずれも違法である。

1  原告が前記昭和三九年分及び同四〇年分の各所得税についての修正申告書を提出したのは、被告係官から「強制査察を行った事件に課税できないことは、一般社会に対する納税意欲を喪失させることになるので、修正申告書を提出してもらいたい。その申告額を納税すれば重加算税の賦課決定は絶対しない。」との申入れがあったため、原告はこの申入れに応ずることとし、被告係官の右言辞を信頼して、真実その所得額がなかったにも拘らず、納税に協力するために右各修正申告書を昭和四一年分の修正申告書とともに被告に提出し、右両年分及び昭和四一年分の所得税、過少申告加算税及び延滞税を別表(一)記載のとおり納付したのである。にも拘らず、原告の善意の信頼を一方的に破棄して重加算税を賦課した被告の本件各処分は、明らかに信義則に反する違法なものである(なお、昭和四一年分については、重加算税の賦課決定処分は行われていない。)。

租税法はじめ公法の分野においても、信義則ないしは禁反言の法理が適用されるべきものであることは、判例上も承認されており、殊に本件における被告側の事情は、単なる行政庁の誤った指導、言動というにとどまるものではなく、詐欺行為ともいうべきものであるから、公法分野においても到底容認すべからざる背信行為である。

2  原告が前項記載の事情によって申告するに至った本件各年分の前記修正申告は、実際にはその所得額がなかったにも拘らず、納税に協力するため仙台国税局査察課長の示した金額をそのまま申告したものであって、本件各年度の修正申告額には仙台国税局が承認した貸倒れ以外にも次に述べる(一)の(1)ないし(6)の現実に発生した貸倒れ損失が存するのにこれが必要経費として算入されておらず、また(二)の昭和三九年度に法律上当然控除されるべき繰越しにかかる雑損失の控除も行われていないもので、真実の所得金額に反するものであるから、これを基礎になされた被告の本件各処分はいずれも違法である(なお、本件各年分と同時にした昭和四一年分の修正申告についても、右事情のもとになされた真実の所得金額に反するものであるから、別訴で被告に対し更正の請求をしている。)。すなわち、

(一) 貸倒金について

昭和三九年分及び同四〇年分の修正申告額には、次の(1)ないし(6)の現実に発生した貸倒金が必要経費として算入されていない。

(1) 株式会社坂東製作所関係分

原告は、昭和三九年度において、訴外株式会社坂東製作所の取引先振出に係る別表(二)約束手形目録記載の約束手形一五通(額面合計八三〇万円)及び同訴外会社振出に係る小切手(額面二〇〇万円)を同訴外会社に対して割引いたが、右約束手形はいずれも昭和三九年度中に、小切手は昭和三九年一〇月六日頃にそれぞれ不渡りとなった。ところで、右手形上の債務者はいずれも右振出人と訴外株式会社坂東製作所とであるが、右約束手形の不渡事由は信用に関するものであるから自動的に取引停止処分の処置が進行するものであり、また原告が右約束手形を現に所持しており買戻しのなされていないことも明らかである。そして右約束手形の振出人は昭和三九年度中に取引停止処分を受けたものであるが、かかる場合当該債務者に対して有する貸金等の金額の五〇パーセントに相当する金額以内の金額を貸倒れとして、当該事実が発生した日の属する年分の事業の所得の計算上必要経費に算入することが認められている税務の取扱い(乙第五号証の二の通達第二七四「形式基準による貸倒れの特例」)に従えば、前記約束手形及び小切手金合計額一〇三〇万円から入金分を差引いた残金九五〇万円の五〇パーセントである四七五万円が債権償却特別勘定として昭和三九年分における事業所得の計算上必要経費となる。

なお、この場合現実に債権償却特別勘定を帳簿上厳密に設けることは、税務の運営上も要求されていないものであって、個人営業者の場合は、かかる細密な会計帳簿の備付を要求することは酷であるし、現に被告は、原告の同訴外会社に対する貸倒れを昭和四一年度に右形式的基準によって五〇パーセント承認しているが、右承認に際しても、原告は、特に債権償却特別勘定の設置等要求されておらず、帳簿の備付等の指示も受けていないものである。

(2) 株式会社栄食関係分

原告は、昭和三九年度中に訴外株式会社栄食から別表(三)小切手目録記載の小切手三通(額面合計一、二〇〇万円)を受取ったが、うち1及び2の小切手がいずれも不渡りとなり、同年度中に同訴外会社が取引停止処分を受けたことは明らかであるから、前同様債権償却特別勘定として右小切手金合計額の五〇パーセントである六〇〇万円が昭和三九年分における損金となり、また右小切手金合計額から右損金額を差引いた残額六〇〇万円のうち、入金になった二九八万三、五七九円を控除した三〇一万六、四二一円が取立不能による貸倒れ損として昭和四〇年分における必要経費となるものである。

(3) 株式会社大一商産関係分

原告が昭和三九年度中において前記株式会社坂東製作所に対して割引いた訴外株式会社大一商産振出の約束手形(額面二四五万円)が同年一二月二五日不渡りとなり、同年度中に右手形上の債務者である株式会社大一商産及び株式会社坂東製作所の両者がいずれも取引停止処分を受けたので、前同様債権償却特別勘定として右手形金額の五〇パーセントである一二二万五、〇〇〇円が昭和三九年分における必要経費となるものである。

(4) 極洋産業株式会社関係分

原告が昭和三九年度に受取った訴外極洋産業株式会社振出に係る約束手形(額面五八万円)が同年一一月三〇日不渡りとなり、同年度中に同訴外会社が取引停止処分を受けたので、前同様債権償却特別勘定として右手形金額の五〇パーセントである二九万円が昭和三九年分における必要経費となる。

(5) 皆川利治関係分

原告が昭和三九年度に受取った訴外皆川利治振出に係る小切手二通(額面合計五〇万円)がいずれも不渡りとなり、同年度中に同訴外人が取引停止処分を受けたので、前同様債権償却特別勘定として右小切手金合計額の五〇パーセントである二五万円が昭和三九年度分における必要経費となる。

(6) 佐藤大喜関係分

原告が昭和四〇年度に訴外佐藤大喜から受取った同訴外人振出に係る別表(四)約束手形・小切手目録記載の約束手形二通及び小切手二通(額面合計三二万円)がいずれも不渡りとなり、同年度中に同訴外人が取引停止処分を受けたので、前同様債権償却特別勘定として右手形・小切手金合計額の五〇パーセントである一六万円が昭和四〇年分における必要経費となる。

(二) 雑損失の繰越控除について

原告はその所有に係るキャバレーが昭和三八年三月五日焼失したため、同年七月一日被告に対し昭和三八年分所得税の減額承認申請をなし、同月二二日雑損控除額として九九七万三、八一六円の承認を受けたが、右雑損控除は、昭和三八年分の所得金額が一一一万五、八四〇円であったため、右承認額から右所得金額を控除した八八五万七、九七六円が翌昭和三九年度に繰越されるものであるのに、昭和三九年分の修正申告において右雑損失の繰越控除がなされていないものである。

3  本件各年分の損失申告書記載の所得金額と修正申告書記載の所得金額との増差額のうち、事業所得に係る部分については、貸倒金の取扱いに関する原告の見解に由来するものであり、事実を隠ぺい・仮装したことによるものではないから、右部分に対し重加算税を賦課した本件各処分はいずれも違法である。

よって、本件各処分の取消を求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認め、同二は争う。

原告は後記のように査察調査の内容の説明を受けた際及び修正申告書提出の勧奨を受けた際にいずれも仙台国税局査察部査察課長大沢正治から「修正申告をした場合でも仮装隠ぺい所得に対しては法律の定めるところによって重加算税は賦課決定される。」旨の説明を受け、本件各処分について重加算税が賦課決定されることを充分承知の上で本件修正申告書を提出したものであるから、被告が本件各処分をしたことについて信義則違反をいわれる筋合は全くない。

二  被告の主張

1  原告は被告に対し別表(五)の損失申告書欄記載のとおり昭和三九年分及び同四〇年分の各所得税の損失申告書を提出した。右損失申告書の申告所得金額には、昭和三九年分及び同四〇年分ともに多額の脱漏があると認められたため、仙台国税局調査査察部において所得税法違反嫌疑事件として昭和四二年六月二〇日査察調査に着手したが、所得計算上必要な利息収入・家賃収入等を記録した帳簿等の備付及び保存もなく計算内容が全く不明であるほか、取引関係書類を隠匿または計画的に破棄しており、また右調査においても虚偽の答弁をするなど原告の供述は全く期待できない状況であったことから、原告の取引銀行及び関係取引先の反面調査を実施したところ、預金取引については架空名義を使用していた事実、取引先に対しては、帳簿に虚偽の記帳をさせ、また、正規の記帳をさせないなどの措置を講じていた事実が判明し、更に譲渡所得が存するにも拘らず申告書に所得金額の記載がなく、しかも真実と異なる契約書を作成していた事実も明らかとなった。

2  仙台国税局は昭和四三年一一月二〇日右査察調査を終了したのであるが、原告は、右調査終了後の一一月二一日仙台国税局調査査察部査察課長大沢正治及び担当の査察課主査斎藤巽から調査内容の説明を受けた結果、調査額を肯定し、右査察課長等の勧奨に応じて昭和四三年一一月二八日被告に対して別表(五)の修正申告書欄記載のとおり右各年分の所得税の修正申告書を提出し、同日増差税額を納付したものである。

3  前記当初の損失申告書の総所得金額と修正申告書による総所得金額との間には非常に多額の開きがあり、単なる計算違いとは認められない事実があり、前記事実を総合判断すれば、原告の当初の損失申告は所得計算の基礎となるべき事実を仮装・隠ぺいしてなされたものにほかならないと認められたので、別表(六)記載のとおり加算税の基礎となる所得金額及び税額の計算をなし、別表(七)記載のとおり過少申告加算税及び本件重加算税の金額を算出して賦課決定をなしたものであるから、本件各処分は適法である。

4  貸倒金の控除について

(一) 原告は、第一五回本件口頭弁論期日において、原告の昭和三九年分、同四〇年分の所得は、原告がそれまで主張してきた貸倒金を控除しなければ前記の各修正申告書記載のとおりであることは争わない旨述べて、前記第二の二、2、(一)、(1)の株式会社坂東製作所関係分の貸倒金を控除しなければ原告の所得金額が被告主張の修正申告書の所得金額記載のとおりであることを認めた。

然るに、その後前記第二の二、2、(一)、(2)ないし(6)のとおり貸倒金があり、又第二の二、2、(二)の雑損失の繰越控除があって、これらが必要経費又は損失として認められるべきものであると主張するのは自白の撤回に当るものというべく、被告は原告の右自白の撤回に異議がある。

(二) そもそも本件係争各年分の査察調査を担当した前記斎藤巽が、昭和四三年一一月二一日原告に対し、本件係争各年分の各所得の種類別に収入金額、必要経費、所得金額の内容を説明した際、特に貸倒れ損失について昭和三九年分として株式会社栄食五七〇万一、二二一円、迫建設工業株式会社二〇万円、株式会社バンコ万年筆一三〇万円、佐々木久男二〇万円、東和工業株式会社二〇〇万円、同五〇万円の合計九九〇万一、二二一円が、昭和四〇年分として株式会社栄食三三一万五、二〇〇円、東北工業株式会社四五九万七、四三一円、小向正八四〇万円、薄場修二七万七、〇〇〇円、吉田清治五〇万円、荒川鉄工六〇万円の合計九六八万九、六三一円が右各年分の必要経費となるものであり、右以外の貸金債権については、債務者別に既にその債権が回収済であるか、または債務者において事業継続中である等貸倒れ発生事実が認められないものであることを原告に説明し、原告もこれを納得の上修正申告書を提出したものである。又、右修正申告書を提出するにあたって、仙台国税局査察官から修正申告書の記載事項を示され、貸倒れ損失のほか昭和三八年分の火災損失についても調査の結果昭和三八年分の総所得金額が当該火災損失額を超えることが明らかであり、従って昭和三九年分所得税について雑損失の繰越控除は生じない旨の説明を受け、これを原告が確認の上肯定し修正申告書の提出に及んだものである。

(三) 貸倒金が改正前の所得税法(昭和二二年三月三一日法律第二七号)一〇条二項(昭和三九年分)及び改正後の所得税法(昭和四〇年三月三一日法律第三三号)五一条(昭和四〇年分)にいうところの必要経費といえるためには、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これに準ずる債権の貸倒れであって、債権の取立不能が客観的に確認できる場合、または債権放棄の事実が確定した場合であり、かかる場合に、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるものとされるのである。そして取立不能とは、その年度中に債務者において破産若しくは和議手続の開始、事業の閉鎖、失踪、行方不明、刑の執行、債務超過の状態が長く続き衰微した事業を再建する見通しのないこと、その他これらに準ずる事情が生じ債権回収の見込がないことが確実となった場合をいうのであるから、手形・小切手が不渡りとなった事実のみをもって直ちに貸倒れ損失発生と解することはできず、原告の貸倒金の主張はいずれも失当である。

もっとも、税務の実際の取扱いにおいては、会社更生法の規定による更生手続の開始決定があった場合に関して、部分的な貸倒れを認める債権償却特別勘定の制度が設けられており、株式会社坂東製作所については更生手続開始決定がなされているが、右開始決定があったのは昭和四一年一一月一六日であるから、債権償却特別勘定によっても必要経費に算入できるのは昭和四一年分以降においてであって、この点からしても原告の主張は失当である。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張1項の事実中原告が被告主張の損失申告書を提出し、仙台国税局調査査察部によって査察調査を受けたことは認め、その余の事実は否認する。

被告は、原告が(1)取引関係書類を隠匿しまたは計画的に破棄している、(2)公表帳簿を備え付けず計算内容不明の申告をしている旨主張するが、右(2)の点については原告は青色申告者ではないから税法上も帳簿備付の義務はなく、帳簿が存在しなくとも営業関係の証票等で所得額を把握し、計算することは十分可能である。また、(1)の取引関係書類が存在しなかったというのは、昭和三九年度及び同四〇年度の各納税申告時より時日を隔てた昭和四二年六月二〇日の査察調査の時点におけるものであり、個人営業の場合に営業年度の一年、二年後まで当該営業年度の取引関係書類を保存しているということは通常考えられないことであって、原告の如き回転の速い貸金業の場合であればなおさらである。しかも、取引関係書類が査察調査の時点で存在しなかったのは、事務所の移転等による散逸によるものであって、原告が故意に隠匿し、または計画的に破棄したことによるものではない。計画的な取引関係書類の隠匿であれば、昭和三九年分及び同四〇年分の貸倒金の立証として原告が提出している甲号証の不渡手形・小切手が本件訴訟の初期において提出されたであろうし、また第一五回口頭弁論におけるような原告の自白もあり得なかったであろうことは容易に推認し得るところである。

二  同2項の事実中、原告が被告主張の修正申告書を提出し、同日増差税額を納付したことは認め、その余は否認する。

三  同3項の事実中、被告が別表(六)記載のとおり所得金額及び税額の計算をなし、別表(七)記載のとおり過少申告加算税及び本件重加算税の賦課決定処分をしたことは認め、その余は否認する。

原告が所得を隠ぺい・仮装したものとして、被告が提出する各証拠は、いずれも架空名義を利用した原告のかくし預金ではない。

又被告が、原告が所得を隠ぺい・仮装したことの根拠とする架空名義定期預金の存在と借入れの事実は、被告が原告に対して本件各処分をした時点において判明していなかったものであり、昭和五〇年九月三〇日以降において収集した事実であるところ、行政処分の違法性の判断の基準時は当該行政処分の時とするのが通説・判例の一致するところであるから、処分時に判明していなかった前記架空名義預金等の事実を考慮して本件各処分の適法性を判断することはできないものである。

四  原告は、第一五回本件口頭弁論期日において、原告の昭和三九年分、同四〇年分の所得は株式会社坂東製作所関係の貸倒金を控除しなければ被告主張の修正申告書の所得金額記載のとおりであることを認めたが、右は真実に反し錯誤に基くものであるから撤回し、否認する。

原告には右坂東製作所関係分のほかに前記第二の二、2、(一)、(2)ないし(6)のとおり貸倒金があり、第二の二、2、(二)の雑損失の繰越があって、これらも必要経費として原告の右所得金額から控除されるべきものである。

なお、右原告の自白は、被告の「原告の右の計算方法によれば自らの主張にかかる手形損失を考慮しない場合は修正申告にかかる事業所得金額が正当であるとしているものと思われるがどうか。」という求釈明に対してなされているところから明らかなように、右第二の二、2、(二)の雑損失の繰越控除に関する陳述は自白の撤回にも当らないものである。

五  被告は、「昭和三八年分の総所得金額が当該火災損失額を超えることが明らかであり、従って昭和三九年分所得税について雑損失の繰越控除は生じない旨説明を受け云々」と主張しているが、原告は右趣旨の説明を受けたことはない。

また仮りに、右趣旨の説明があったとすれば、極めて不当なものである。昭和三八年分については、原告は所得税の損失申告をなし、その後修正申告も更正もなされていないものであるから、昭和三八年分の所得税の損失申告は有効に確定しているものである。仙台国税局査察官は、前記昭和三八年分の火災損失について、一体「如何なる手続」において「如何なる所得」から所得控除した結果、翌年以降への繰越控除分が消滅したとして取り扱い、その旨原告に説明したというのであろうか、右取り扱いに何の法的根拠も存しないことは明らかであり、昭和三八年分の火災損失は、当然昭和三九年分において繰越控除されるべきものである。被告の前記説明は、徒らに原告の税法上の利益を放棄させんとするものであって極めて不当でありこれに対する原告の承認が仮りにあったとすれば、真に錯誤によったものと言う外なく、その承認が無効であることはいうまでもない。昭和三九年分の修正申告において、右雑損失の繰越控除がなされていないことは明らかで、右修正申告が真実の所得金額に反するものであることもまた明白である。

第五証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第四四号証の各一、二、第四五ないし第五一号証、第五二ないし第六七号証の各一、二、第六八ないし第七三号証、第七四号証の一ないし六、第七五号証の一ないし三、第七六号証、第七七号証の一ないし三、第七八号証の一ないし六、第七九ないし第八一号証、第八二号証の一、二、第八三号証の一ないし九、第八四号証の一、二、第八五号証の一ないし五、第八六号証の一、二、第八七号証の一ないし三、第八八ないし第九二号証、第九三及び第九四号証の各一、二、第九五ないし第九八号証、第九九ないし第一〇一号証の各一、二、第一〇二号証の一ないし四、第一〇三ないし第一〇五号証、第一〇六号証の一、二、第一〇七号証、第一〇八号証の一ないし四、第一〇九ないし第一一八号証(第一一一号証は写)、第一一九号証の一、二、第一二〇及び第一二一号証(第一二〇号証は写)、第一二二号証の一、二、第一二三号証を提出。

2  証人斎藤巽(第一回)、同大沢正治、同阿部保男の各証言及び原告本人尋問の結果を採用。

3  乙第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第八号証の一ないし三、第八八号証の成立はいずれも認める(第八号証の一ないし三については原本の存在とその成立)。第七号証の一、二及び第九号証の原本の存在と原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認め、その余の成立は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも知らない(第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第五七号証、第五八号証の一、二、第五九ないし第八七号証はいずれも原本の存在とその成立)。

二  被告

1  乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二(いずれも写)、第八号証の一ないし三(いずれも写)、第九、第一〇号証(いずれも写)、第一一号証の一、二(いずれも写)、第一二ないし第五七号証(いずれも写)、第五八号証の一、二(いずれも写)、第五九ないし第八九号証(第五九ないし第八七号証はいずれも写)を提出。

2  証人斎藤巽(第一、第二回)、同大沢正治、同佐藤英男の各証言を援用。

3  甲第四五ないし第五一号証、第六八ないし第七二号証、第七四号証の一ないし六、第七五号証の一ないし三、第七六号証、第七七号証の一ないし三、第八八号証、第九六ないし第九八号証、第一〇六号証の一、二、第一〇七号証、第一〇八号証の一ないし四、第一〇九ないし第一一八号証、第一一九号証の一、二、第一二〇、第一二一号証、第一二二号証の一、二、第一二三号証の成立はいずれも認める(第一一一号証及び第一二〇号証は原本の存在とその成立)。その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。

理由

一  原告が被告に対し、昭和四〇年三月一一日別表(五)記載のとおりの昭和三九年分損失申告書を提出し、昭和四一年三月九日同表記載のとおりの昭和四〇年分損失申告書を提出し、これに対し仙台国税局調査査察部が査察調査をしたこと、その結果原告が昭和四三年一一月二八日別表(五)記載のとおり修正申告書を提出し、これに基づいて被告が別表(六)記載のとおり所得金額及び税額の計算をなし、昭和四四年四月二四日別表(七)記載のとおり過少申告加算税及び本件重加算税の賦課決定処分をしたこと、原告はそのうち本件重加算税の賦課決定処分に対し請求原因一項の2のとおり被告に対し異議申立をなし、更に国税不服審判所に対して審査請求をしたが、いずれも昭和四六年三月三一日棄却されその裁決書謄本が同年四月一三日原告に送達されたことについては当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない事実並びに成立に争いのない甲第六八ないし第七〇号証第一〇七号証、第一〇八号証の一ないし四、第一一〇号証、乙第八八号証、証人斎藤巽(第一、二回)の証言及びこれにより成立を認めうる乙第一号証、第八九号証、証人大沢正治の証言及びこれにより成立を認めうる乙第二号証、原告本人尋問の結果(後記措信できない部分を除く。)を総合すると、原告に係る昭和三九年分及び同四〇年分の所得税については、昭和四一年分の所得税とともに、前記のように所得税法違反嫌疑事件として仙台国税局が昭和四二年六月二〇日査察調査に着手し、強制調査をしたこと、右調査においては右各年分の所得金額を確定できる帳簿類等が存在しなかったため、取引先等について全面的に調査を実施して証拠蒐集しなければならなかったこと、原告は右調査にきわめて非協力的であったことなどから調査が難航し、長期間を要したが、調査の結果原告が訴外藤野卓児と口裏を合わせて主張していた訴外紅葉実業株式会社に対する貸倒損失が虚構のものであることが判明し、原告が右事実を認めたことによって昭和四三年一一月二〇日査察調査は終了したこと、調査終了後の同年一一月二一日仙台国税局では原告の出頭を求め、査察課事務室において、査察課長である大沢正治及び担当の主査である斎藤巽から原告に対して、昭和三九年分から同四一年分までの各年分の事業所得、不動産所得、譲渡所得、給与所得、雑所得の各所得の種類別に作成した収支計算表を示して調査所得金額の内容を説明したところ、原告はそれらを克明に検討し、特に貸倒金については自ら持参したメモによってそれが認容されているかどうか個別に質問し、坂東製作所関係の貸倒金については昭和四一年分の貸倒れになるものであること、また雑損失の繰越分については査察調査の結果昭和三八年分についても火災による損失を超える所得があったと認められるので、本件昭和三九年分に繰越損失を認めることはできない等の説明を受けてこれらを検討した結果調査額を肯定するに至ったこと、ところで仙台国税局では査察調査事案の課税処理にあたっては、爾後の指導をかねて修正申告の勧奨をすることとしていたため原告が調査所得金額について納得した段階で右査察課長から原告に対して、右調査対象となった年分の所得税について修正申告書の提出を勧奨したこと、これに対し原告から右各年分の修正申告書を提出する旨の申立があり、昭和四三年一一月二八日原告は仙台国税局に出頭し、調査査察部長室において、調査査察部長である永井謙治及び前記査察課長の大沢正治立合いのもとに、前記調査結果に基づいて前記各年分の修正申告書を作成し(昭和三九年分については、調査額より所得金額を減額して作成)、延滞税については右査察課長から徴収部徴収課で計算した金額を告げられて、仙台北税務署に赴き、右修正申告書を提出するとともに、右各年分の所得税及び延滞税を納付したこと、なおその際原告は右各年分の過少申告加算税も納付したが、これは右査察課長から原告に対し加算税は賦課決定があってから納めるものであるから、決定通知によって納めてもらいたい旨説明があったにも拘らず、原告において自分で計算して勝手にこれを納めたものであること、そのため仙台北税務署では過少申告加算税として原告が納付した右金額を加算税の賦課決定があるまで過誤納として処理していたものであること、が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  原告は、被告係官が原告において前記修正申告書を提出し、その税金を納付すれば本件重加算税の賦課決定は絶対しない旨申し向けて右修正申告書を提出させておきながら、その後右約束に反して本件重加算税賦課決定処分をなしたのは信義則に反し許されない旨主張するので検討するに、証人阿部保男の証言及び原告本人尋問の結果中には、前記修正申告書の提出を原告に勧奨するに際し、前記大沢査察課長において原告に対し右重加算税を課さない旨約束したとの部分があるけれども、右は前出乙第一、第二号証、証人斎藤巽(第一回)、同大沢正治の各証言に照らしてにわかに措信し難く、他に右原告主張事実を認めるにたりる証拠はない。

四  次に、原告は、原告が被告に対して提出した昭和三九年分及び同四〇年分の各修正申告書記載の所得金額は、真実の所得金額に反するものであるから、これを基礎になされた被告の本件各処分はいずれも違法であると主張する。

ところで、原告の右主張は、被告のなした本件各処分の適法性を争うために、その前提となる原告自らなした本件修正申告に係る納税額(所得税)が過大であることを争うものであるが、しかし、申告納税制度における納税の申告は、租税債務を確定させる行為であり、これに基づいて租税法律関係が生成・発展するものであるから、申告に係る課税標準等または税額等が過大であったからといって右申告を前提としてなされたその後の手続において当然に右課税標準等または税額等の一部または全部を不存在と主張しうるものではなく、かかる場合は、国税通則法二三条に定める更正の請求の方法によって、その申告に係る課税標準等または税額等の是正を図ることを要するものというべきである。

もっとも、右は年々大量に発生する国家の租税債権を可及的速かに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるとともに、納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れがないと認められることによるものであるから、右更正の請求以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合においては、納税義務者は右更正の請求の方法によらず、錯誤を理由に納税申告の無効を主張し得るものというべきであるが、その場合においても、右錯誤が客観的に明白且つ重大な場合でなければならないものと解すべきである(最高裁昭和三九年一〇月二二日第一小法廷判決、民集一八巻八号一七六二頁参照)。

これを本件についてみるに、前記二認定のように原告は査察調査の結果を詳細に説明され、特に本件貸倒金及び雑損失の繰越控除について前記のような説明を受けこれを克明に検討したうえ、右調査結果を肯定し、税務当局の勧奨を受けて修正申告書を提出したものであること、それでも、昭和三九年分については右調査結果より低い所得額の申告をしているものであること、前記三認定のように重加算税を賦課しない旨申し向けられて本件修正申告書を提出したものとは認め難いこと、及び後記五のように前記各損失申告書はその所得金額を仮装隠ぺいして作成提出されたものと認められることなどの事実を総合すれば、原告主張の各貸倒金及び雑損失の繰越控除の各算入漏れが原告の客観的に明白で重大な錯誤によるものとは到底認められないから、原告のなした本件各年分の修正申告を無効ということはできないし、原告の本件各年分の修正申告にかかる課税標準等又は税額等について国税通則法二三条による更正がなされたことについては主張も立証もないから、修正申告書の所得金額が過大であることを前提として本件各処分の違法をいう原告の前記主張は理由がないものといわなければならない。

五  前記一の当事者間に争いのない事実によれば、被告は原告から提出された本件修正申告書の所得金額及び税額のうち、前に提出された損失申告書において所得金額として申告のあった分を過少申告加算税対象とし、その余は全部本件重加算税対象としたものであることが認められるところ、右重加算税対象とされた所得金額が原告の仮装隠ぺいによるものであるか否かについて最後に検討する。

前記一、二の各事実並びに前出乙第一号証、原本の存在と成立に争いのない乙第八号証の一ないし三、原本の存在につき争いがなく、原告名下の印影が原告の印章による印影であることが当事者間に争いがないので真正に成立したものと推認される乙第七号証の一、二、第九号証、証人斎藤巽(第一、第二回)の証言、同佐藤英夫の証言及びこれにより成立を認めうる同第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第五七号証、第五八号証の一、二、第五九ないし第八七号証を総合すると、前記査察調査の段階において、原告には所得計算をするに必要な帳簿類が存在しなかったこと、原告は、査察調査を受けるに及んで、自己に不利益なことは一切供述せず極めて非協力的であったばかりでなく、訴外紅葉実業株式会社の代表取締役である藤野卓児と通謀して、原告の右訴外会社に対する貸金の貸倒損失として昭和三九年分二、〇〇〇万円以上、同四〇年分二、五七一万円があると主張していたこと、然るに、右藤野卓児の再調査と右訴外会社の従業員で原告と訴外会社との取引を直接担当した訴外吉野悌三の調査の結果、右主張が全くの虚構であり、貸倒金は全く発生していない事実が判明し、原告も右事実を認めざるを得なかったこと、原告は昭和三九年六月一日に自己所有の建物を訴外熊谷竹治に代金五万円で売渡し、同年六月一一日自己所有建物を九五万円で訴外株式会社ニュークリート防水工業社に売渡し、更に昭和四〇年一二月二四日自己所有の建物を訴外谷地田勇に代金一四二万八、〇〇〇円で売渡し、各売渡後間もなく各代金を受領していながら、右昭和三九年、四〇年の当初の損失申告書において譲渡所得なしと申告してこれを隠ぺいしたこと、また原告の取引銀行に対する反面調査によって、原告が七十七銀行名掛丁支店に、昭和三九年度において合計一、一〇〇万円にのぼる架空名義の定期預金合計三二通を有し、右架空名義の定期預金を担保として同銀行から架空名義で合計一三件(金額合計二、三〇〇万円)の手形貸付を受け、同年度中に全て支払済みにしていたこと、昭和四〇年度においては、合計六〇〇万円にのぼる架空名義の定期預金合計二二通を有し、右架空名義の定期預金を担保として同銀行から架空名義で合計七件(金額合計二、三〇〇万円)の手形貸付を受け、これまた同年度に全て支払済にしていたこと、従って、原告は、架空名義の定期預金を設定し、これを担保として銀行から架空名義の借入れをして第三者に貸付け、その貸金利息を収受しながらこれを隠ぺいし、債務者と通謀して虚偽の貸倒金の主張をして貸倒損失を仮装し、右仮装・隠ぺいしたところに基づいて本件各年分の各損失申告書を作成提出したものであることが認められ、以上の事実に前記一のように原告の当初の損失申告書の所得金額及び損失額と査察調査を受けた結果提出された修正申告書の所得金額及び損失額との間に多額の増差がある点を合わせ考えると、前記重加算税対象とされた所得金額は原告の仮装隠ぺいによるものと推認され、これを重加算税対象とした被告の認定は相当であると是認できる。

原告は、被告が仮装・隠ぺいの根拠とする架空名義の定期預金の存在並に借入れの事実は本件各処分時には判明していないものであり、昭和五〇年九月三〇日以降において収集した資料に基づくものであるが、行政処分の違法性の判断の基準時は当該処分時であるから、処分時に判明していなかった右のような事実を考慮して本件各処分の適法性を判断することはできない旨主張するけれども、たとえ処分後の調査により判明又は収集した事実又は資料であっても、それが処分当時の事実に関するものであるときはこれを裁判資料としても、何ら行政処分の違法判断の基準時を処分時とすることと矛盾するものではなく、これを裁判資料とすることは妨げられないものと解すべきである。けだし違法判断の基準時の問題は処分の適否を何時の時点における法令及び事実状態に照して判断すべきかの問題であるが、たとえ訴訟において提出された事実又は資料が処分後に判明又は収集されたものであっても、その判明した事実又は証する内容が処分当時存在した事実に関するものであるときは、右のような資料を裁判資料として処分当時の事実状熊を判断しても、このことは違法判断の基準時を処分時とすることと何ら相反するものでないことは明らかであるし、他に本件のような場合において、右のような処分後に判明した処分当時の事実又は資料を裁判資料とすることを制限する法律上の根拠も存しないから、原告の前記主張は採用できない。

なお原告は前記増差額のうち事業所得に係る部分は、貸倒金の取扱いに関する原告の見解に由来するものであって事実を隠ぺいしたものではない旨主張するが、証人斎藤巽(第一回)の証言によると、訴外坂東製作所に対する貸倒金については、原告において、前記査察調査着手前に提出した昭和四一年分の所得申告において一、〇〇〇万円の貸倒金として申告しているものであることが認められ、また、その余の貸倒金の主張に係る部分についても、原告が本訴提起後三年有半を経過した後の第二四回口頭弁論期日以降においてこれを主張するに至ったものであって、これらの事実に前認定の仮装隠ぺいの事実を合わせ考えると、原告の右主張は、にわかにこれを採用することができない。

六  以上の次第で、被告のなした本件各処分は適法と認められ、原告主張の違法はなく、これが取消を求める原告の本訴請求は理由のないこと明らかであるから、いずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 後藤一男 裁判官竹花俊徳は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 伊藤和男)

別表(一)

<省略>

別表(二) 約束手形目録

<省略>

<省略>

別表(三) 小切手目録

<省略>

別表(四) 約束手形・小切手目録

約束手形

<省略>

小切手

<省略>

別表(五)

<省略>

別表(六)

<省略>

別表(七)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例